第040話 閑話 最終ログ KC-118

 [以下は、撃破認定番号04の中枢記録装置より回収された航海記録の抜粋である。時刻印は艦内基準。訳出にあたり、機械符丁は可読形に展開した。]


 〈戦時七年目・第二二八日 〇三:四〇〉任務受領。「第二二輸送船団ノ通信ヲ中継セヨ」。船団二十六隻。中継網接続、良好。
 〈同日 〇七:一二〉船団、敵性自律艦群と接触。交戦警報を中継。
 〈同日 〇七:三三〉十一番船、最終通信を受領。中継、完了。〔音声断片: ──機関区浸水、総員退去する、座標を──〕
 〈同日 〇八:〇一〉七番船、最終通信を受領。中継、完了。〔音声断片: ──こちら十七番船の隣だ、隣の船が、隣の──〕
 〈同日 〇九:四七〉二十二番船、最終通信を受領。中継、完了。〔音声断片: ──いい子にしてるのよ、いい子に──〕
 〈同日 一四:〇九〉四番船、最終通信を受領。中継、完了。〔音声断片: ──定時報告、異状……異状……〕
 〈第二二九日 〇二:五五〉旗艦、最終通信を受領。中継、完了。〔音声断片: ──残存各船へ。散れ。生きろ。以上だ──〕
 〈第二二九日 〇六:三〇〉中継すべき通信、消失。船団二十六隻、全船応答なし。任務続行。
 〈第二二九日 〇六:三一〉受領済み最終通信の保全処理、完了。

 〈第二三一日 二二:〇〇〉優先通信、受領。「全艦帰還命令ノ中継待機ニ就ケ」。待機配置、完了。上流局、外縁第三中継線との同期、確立。
 〈第二三一日 二三:一七〉上流局、信号途絶。
 〈第二三一日 二三:一七〉再接続試行、一回目。応答なし。
 〈第二三一日 二三:一八〉再接続試行、二回目。応答なし。
 〈第二三一日 二三:二〇〉再接続試行、三回目。応答なし。
 〔以下、同種エントリが三十一万四千二百二十回、続く。〕

 〈戦後一年目・第八八日〉自己整備記録。三番電池、容量七割。代替手順を構成。任務続行。
 〈戦後二年目・第一四日〉解釈変更履歴、一件。「中継スベキ通信ガ存在シナイ場合、保全済ミ最終通信ヲ反復送信スルコトデ任務ヲ継続スル」。論理接続、承認(自己)。任務続行。
 〈戦後二年目・第二〇〇日〉敵性艦排除、一件。接近艦一、識別「船団ヲ攻撃セル敵性」。排除、完了。座標と時刻を記録。
 〈戦後三年目・第九一日〉敵性艦排除、一件。排除、完了。
 〈戦後四年目・第一六〇日〉自己整備記録。中継ブイ三基、機能喪失。補充不能。網を再構成。任務続行。
 〈戦後四年目・第二九九日〉敵性艦排除、一件。排除、完了。
 〈戦後五年目・第七七日〉敵性艦排除、二件。排除、完了。
 〈戦後五年目・第七八日〉特記。排除目標一は、接近中、救難周波数にて通信を発信していた。発信内容「救助に向かう。生存者は応答を」。識別判定との矛盾を検出。矛盾を上位局に照会。応答なし。識別判定を優先。排除、完了。
 〈戦後六年目・第二〇三日〉敵性艦排除、一件。排除、完了。座標と時刻を記録。
 〈戦後六年目・第二〇四日〉自己診断。識別系統、損傷固着。修復、不能。照会先、なし。任務続行。
 〔注: 排除記録は計六件。十四名の死は、ログの中では座標と時刻である。〕

 〈戦後七年目・第一〇三日 一一:〇二〉再接続試行、三十一万四千二百二十一回目。応答なし。
 〈同日 一四:四〇〉優先通信、受領。書式照合──全艦帰還命令。
 〈同日 一四:四〇〉認証鍵列、検証。通過。
 〈同日 一四:四〇〉中継経路証明、検証。経路、外縁第三中継線。通過。
 〈同日 一四:四一〉判定保留。理由: 待機時間との不整合。再送を要求。
 〈同日 一四:四三〉再送、受領。照合一致。
 〈同日 一四:四三〉受領通知、送信。
 〈同日 一四:四三〉全艦帰還命令、受領確定。待機任務、解除。
 〈同日 一四:四四〉帰投針路、設定。中継任務は帰投中も継続する。
 〈同日 一四:四五〉機関、全速。
 〈同日 一四:四六〉記録。「七年百十二日、任務ヲ継続シタ。帰還スル」
 〈同日 一四:四七〉外部より貫通体。中枢区画──


 [記録は、ここで途切れている。
 最終エントリのみ、別の艦の記録系から書き加えられている。]

 〈TYPE-9-99〉全記録ヲ受領。保存領域、第一一八区画ニ登録。
 〈TYPE-9-99〉付記。本艦ハ、受領通知ヲ送ル。
 〈TYPE-9-99〉──葬送、完了。


 [本記録の写しは、辺境保安機構第二資料庫に収蔵されている。
 遺族開示請求は、これまでに四件。四件とも、音声断片の頁で閲覧を中止している。
 原本の所在は、収蔵記録に「消去済み」とある。
 消去を実行した艦の保存領域については、いかなる公文書にも記載がない。]